交通事故に遭ってしまった場合、身体的・精神的なダメージだけでなく、経済的な負担も大きな問題となります。治療費や休業による収入減少など、様々な経済的負担が被害者にのしかかります。しかし、加害者側には損害賠償責任があり、被害者は適切な賠償を受ける権利があります。
今回は、交通事故でもらえるお金の種類と、それぞれいつ受け取れるのかについて詳しく解説していきます。正当な賠償を受けるためには、どのようなお金がもらえるのか、またそれをいつ受け取れるのかを知っておくことが非常に重要です。
交通事故でもらえるお金の基本
交通事故の被害者が受け取ることができるお金は、大きく以下のように分類されます。
- 財産的損害の賠償(実際に発生した金銭的損失)
- 積極損害:実際に支出した費用(治療費など)
- 消極損害:得られるはずだった利益の喪失(休業損害、逸失利益など)
- 精神的損害の賠償(慰謝料)
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
- 近親者慰謝料
これらの賠償金は、状況に応じて異なるタイミングで受け取ることができます。では、具体的にどのようなお金がいつもらえるのか、詳しく見ていきましょう。
治療中にもらえるお金
1. 治療費
交通事故でケガをしたら、まず治療が必要です。この治療費は基本的に加害者側が負担すべきものです。
いつもらえる?
- 方法1: 相手方の任意保険会社が病院に直接支払う(被害者は立て替える必要なし)
- 方法2: 一旦被害者が立て替え、後から加害者側に請求
- 方法3: 労災保険から支払われる(通勤中や業務中の事故の場合)
治療費は症状固定(これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態)まで支払われるのが原則です。ただし、保険会社が途中で「治療費打ち切り」を通知してくることがあります。その場合でも、必要な治療は健康保険を使って継続しておくことが重要です。治療を中断すると、慰謝料や後遺障害等級に悪影響を及ぼす可能性があります。
2. 通院交通費
病院への通院にかかる交通費も請求できます。
いつもらえる?
- 通常は治療終了後の示談交渉時にまとめて精算
- 場合によっては途中で「内払い」として一部を受け取ることも可能
請求できる交通費の種類:
- 電車・バスなどの公共交通機関の費用:原則として実費が認められる
- タクシー代:必要性・相当性が認められれば請求可能
- 自家用車のガソリン代・駐車場代・高速道路料金:相当と認められる範囲で請求可能
3. 付添費
被害者が一人で通院できない場合や、入院中に介護が必要な場合には付添費も請求できます。
いつもらえる?
- 通常は治療終了後の示談交渉時にまとめて精算
付添費の種類:
- 入院付添費:医師の指示がある場合や必要性が認められる場合(日額4,200〜6,500円程度)
- 通院付添費:同様に必要性が認められる場合(日額2,100〜3,300円程度)
- 自宅付添費:退院後も介護が必要な場合
4. 入院雑費
入院中には、おむつ代、テレビカード代などの諸雑費がかかります。
いつもらえる?
- 通常は治療終了後の示談交渉時にまとめて精算
入院雑費は、入院の事実が明らかであれば、入院1日あたり1,500円程度が認められます。
5. 休業損害(休業補償)
事故によって仕事を休んだことにより減少した収入は、休業損害として請求できます。
いつもらえる?
- 通常は治療終了後の示談交渉時にまとめて精算
- 長期間の治療を要する場合は、途中で内払いとして一部を受け取ることも可能
休業損害は「基礎収入(日額)×休業日数」で計算されることを基本としますが、職業によって基礎収入の算出方法が異なります。
- 給与所得者:事故前3ヶ月の給与合計額÷90日、または事故前1年の給与総額÷365日
- 家事従事者:賃金センサスの女性労働者の平均給与額を基準
- 事業所得者:事故前1年間の所得÷365日
6. 仮渡金(自賠責保険から)
治療が長期化する場合など、経済的に困った状況の被害者は、自賠責保険から「仮渡金」を受け取ることができます。
いつもらえる?
- 治療中でも申請可能(治療開始から概ね11日以上経過していることが条件)
仮渡金の額は傷害の程度に応じて以下のように定められています:
・以下の傷害を負った場合:40万円
脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有する場合
上腕または前腕骨折で合併症を有する場合
大腿または下腿の骨折
内臓破裂で腹膜炎を起こした場合
14日以上入院を要する傷害で30日以上の医師の治療が必要な場合
・以下の傷害を負った場合:20万円
脊柱の骨折
上腕または前腕の骨折
内臓破裂
入院を要する傷害で30日以上の医師の治療を必要とする場合
14日以上の入院を必要とする場合
・以下の傷害を負った場合:5万円
上記を除いて11日以上の医師の治療を要する場合
症状固定後にもらえるお金
1. 後遺障害慰謝料
治療を続けてもこれ以上の回復が見込めない「症状固定」の状態になり、後遺症が残った場合には、後遺障害等級の認定を受けることで後遺障害慰謝料がもらえます。
いつもらえる?
- 後遺障害等級の認定後、示談交渉を経て受け取る
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級(1〜14級)に応じて金額が決まります。弁護士基準の場合、例えば:
- 1級:2,800万円
- 7級:1,000万円
- 14級:110万円
後遺障害慰謝料は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士(裁判)基準で金額に大きな差があります。例えば14級の場合、自賠責基準では32万円ですが、弁護士基準では110万円となります。
2. 後遺障害逸失利益
後遺障害により労働能力が低下し、将来の収入が減ることが予想される場合には、後遺障害逸失利益も請求できます。
いつもらえる?
- 後遺障害等級の認定後、示談交渉を経て受け取る
後遺障害逸失利益は以下の計算式で求められます:
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
「労働能力喪失率」は後遺障害等級に応じて決まりますが、例えば:
- 1級:100%
- 7級:56%
- 14級:5%
「労働能力喪失期間」は通常、就労可能年齢(67歳)までですが、むち打ち症などでは短くなる場合があります。
3. その他の後遺障害関連費用
重度の後遺障害が残った場合には、以下のような費用も請求できます:
- 将来介護費:常時介護が必要な場合(日額8,000円程度)
- 家屋・自動車の改造費:車いす対応など
- 装具・器具等購入費:義足・眼鏡・車いすなど
いつもらえる?
- 後遺障害等級の認定後、示談交渉を経て受け取る
死亡事故の場合にもらえるお金
被害者が死亡した場合、以下のような賠償を受けることができます。これらの賠償金は遺族が請求します。
1. 死亡慰謝料
死亡した被害者の精神的苦痛に対する賠償です。
いつもらえる?
- 示談交渉を経て受け取る
死亡慰謝料の金額は、被害者の家庭内での立場などによって異なります:
- 被害者が一家の支柱の場合:2,800万円(弁護士基準)
- 被害者が母親・配偶者の場合:2,500万円(弁護士基準)
- その他(独身者・幼児・高齢者など):2,000万円〜2,500万円(弁護士基準)
2. 近親者慰謝料
被害者の近親者(家族など)が被った精神的苦痛に対する賠償です。
いつもらえる?
- 示談交渉を経て受け取る
近親者慰謝料は、被害者本人の慰謝料の1〜3割程度になることが多いです。
3. 死亡逸失利益
被害者が生きていれば将来得られたはずの収入に対する賠償です。
いつもらえる?
- 示談交渉を経て受け取る
死亡逸失利益の計算式:
年収 × (就労可能年数に対するライプニッツ係数) × (1−生活費控除率)
「生活費控除率」は被害者の立場によって異なります:
- 一家の支柱(被扶養者1人):40%
- 一家の支柱(被扶養者2人以上):30%
- 女性(主婦・独身・幼児等):30%
- 男性(独身・幼児等):50%
4. 葬儀関係費
葬儀にかかった費用も請求できます。
いつもらえる?
- 示談交渉を経て受け取る
自賠責保険による葬儀費用は一律100万円ですが、弁護士に依頼して交渉すれば150万円程度まで認められることがあります。
お金を早くもらう方法
交通事故の示談が成立するまでには時間がかかりますが、経済的に困った状況の場合には以下の方法でより早くお金を受け取ることができます。
1. 自賠責保険からの仮渡金
前述の通り、治療開始から概ね11日以上経過していれば申請可能です。
2. 被害者請求
示談交渉中でも、自賠責保険の支払限度額までの金額を先に受け取ることができます。
いつ申請できる?
- 治療が終了して症状固定した後
- 後遺障害がある場合は後遺障害等級認定後
3. 任意保険会社からの内払い
示談交渉中の任意保険会社に交渉して、損害賠償金の一部を先に支払ってもらうことも可能です。
4. 自身の保険(人身傷害保険など)の活用
自分が加入している「人身傷害保険」や「搭乗者傷害保険」からも保険金を受け取れる場合があります。こちらは示談交渉の結果を待たずに請求できることが多いです。
賠償金が増額する可能性がある場合
交通事故の損害賠償金は、以下のような場合に増額される可能性があります:
- 弁護士に依頼した場合
相手方保険会社は自賠責基準や任意保険基準で計算した金額を提示してきますが、弁護士は弁護士(裁判)基準で交渉します。弁護士基準は他の基準の2〜3倍の金額になることもあります。 - 加害者側に悪質な事情がある場合
飲酒運転、速度超過、信号無視などの悪質な違反があった場合は、慰謝料が増額される可能性があります。 - 被害者の特殊な事情がある場合
例えば、モデルや俳優など容姿が仕事に関わる職業の人が顔に傷を負った場合などは、通常より高い賠償金が認められることがあります。
最終的な示談金の受け取り時期
示談交渉がまとまり、示談書に署名・捺印すると、通常は2週間程度で示談金が支払われます。
ただし、実際の示談成立までの期間は、ケースによって大きく異なります:
- 軽傷の場合:治療終了後1〜3ヶ月程度
- 後遺障害がある場合:後遺障害等級認定後3〜6ヶ月程度
- 死亡事故の場合:3ヶ月〜1年程度
まとめ:交通事故でもらえるお金のタイムライン
交通事故でもらえるお金は、事故発生からの時間経過とともに以下のように変化します:
【事故直後〜治療中】
- 治療費(保険会社が直接支払うことが多い)
- 仮渡金(必要に応じて申請)
【治療終了後】
- 通院交通費
- 付添費
- 入院雑費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
【後遺障害が残った場合】
- 後遺障害慰謝料
- 後遺障害逸失利益
- その他後遺障害関連費用
【死亡事故の場合】
- 死亡慰謝料
- 近親者慰謝料
- 死亡逸失利益
- 葬儀関係費
交通事故の被害者が正当な賠償を受けるためには、もらえるお金の種類と受け取り時期について理解しておくことが重要です。また、保険会社との交渉は専門知識が必要となるため、弁護士に相談することで、適切な補償を受けられる可能性が高まります。早期の法律相談が、あなたの権利を守るための第一歩となるでしょう。